物語がつまった宝箱
祥伝社ウェブマガジン

menu
  • 2(2) 2022年9月1日更新
		****

 真次郎(しんじろう)が父のもとで働き出してしばらく経(た)った頃に、練習がてら弟ふたりを占ってくれたことがある。
 恭四郎(きょうしろう)は中学生で、優三郎(ゆうざぶろう)は高校生だった。西洋占星術のホロスコープをもとに、性格や運勢を診断してもらった。細かくは覚えていないが、おおまかなところはあたっていたように思う。
 恭四郎は「活発な性格でコミュニケーション能力も高く、世渡りがうまい。好奇心旺盛な半面、少し飽きっぽいところもあり、じっくりと物事に取り組む力を養えば周囲からも信頼を得られる」。優三郎のほうは「気が優しく、周囲への思いやりを忘れない。一方で優柔不断(ゆうじゅうふだん)な面もあり、他人に振り回されがちなので、はっきり自分の意見を伝えるように心がけるとうまくいく」というような見立てだった。
 なるほどな、と優三郎は感心して聞いていたが、恭四郎はいまひとつ納得がいかなかった。結果そのものはいいとして、
「それって、いちいち占わなくてもわかることじゃん?」
 恭四郎が世渡り上手で飽き性なのも、優三郎が思いやりが深い一方で優柔不断なのも、そばにいればすぐにわかることだ。家族のみならず、少しでも親しいつきあいのある友人知人であれば、みんな知っているだろう。
「おれでもわかるよ。てか、誰にでもわかるんじゃね?」
「だからそれは、占いがあたってるってことなんだよ」
 真次郎は不満げに反論した。
「なんだよ、感じ悪いな。せっかくお前たちの役に立つようにと思って、占ってやってるのに」
「は? 役に立ってるのは、おれたちのほうでしょ? こうして練習台になってあげてるんだから」
 恭四郎も負けじと言い返した。
「ふたりとも、やめなよ」
 にらみあう兄と弟に挟まれて、優三郎が困った顔で仲裁した。
 騒ぎを聞きつけたらしく父もやってきた。息子たち三人と、真次郎が手もとに広げている二枚のホロスコープを、順に見比べた。
「どうした?」
 事情をひととおり聞き終えると、父は三人をぐるりと見回してから、まず真次郎に目を向けた。
「いいか、真次郎。占いっていうのは、勝手にやるもんじゃない」
「勝手にはやってないよ。ふたりに了承をもらって……」
 真次郎は弁解しかけたものの、
「占ってくれ、って頼まれたのか?」
 と父にさえぎられて、しょんぼりと口をつぐんだ。
「お客さんから占ってほしいって依頼を受けて、はじめて占うんだ。それがプロの仕事だよ。頼まれてもいないのに、押し売りしちゃいけない」
 むっつりと黙りこんだ真次郎の横で、恭四郎も殊勝(しゅしょう)に目をふせた。口もとがにやつきそうになるのをがまんする。
「必要なときに、必要なひとのために、占うんだよ。わかるな?」
 父は励(はげ)ますように真次郎の肩に手を置いて、言葉を切った。今度は恭四郎のほうに向き直る。
「占いを信じるか信じないかは、個人の自由だ」
 真次郎が悔しそうにきゅっと眉根を寄せた。もの言いたげに口を開きかけ、父に目顔で制される。
 そこまでは、よかった。
「ただ」
 父が静かに続けたので、恭四郎は身構えた。
「お父さんも真次郎も、この仕事を真剣にやってるんだよ。恭四郎は信じなくてもかまわないけど、ばかにもしないでもらえるとありがたいな」
 怒っているふうではなかったが、恭四郎はしゅんとして謝った。
「ごめんなさい」
 父から説教されることはめったにないので、こたえた。
「いや。そういえば、今までみんなとこういう話をちゃんとしたことがなかったよな。いい機会だった」
 父は口調を和(やわ)らげた。
「あと、そもそも家族のことを占うのは、あんまりすすめないな。身近すぎる相手のことは占いづらいんだ。どうしても気持ちが入りすぎる」
 まあでも、と微笑(ほほえ)んで言い添える。
「ふたりとも、もし占ってほしいことができたら、遠慮なく声をかけてくれていいよ。ベストは尽くすから」
 優三郎と恭四郎に言ってから、真次郎と目を合わせた。
「真次郎も、そのときに備えて腕を上げておきなさい」

 以来、いまだに「そのとき」は訪れていない。
「恭四郎が占ってほしいって頼んだら、喜ぶと思うけどな」
 優三郎は食いさがる。
「まあね」
 恭四郎もそこに異論はない。
「でもさ、喜ぶっていうか、はりきっちゃわない? はりきりすぎるっていうか」
 言いたいことは伝わったようで、優三郎が苦笑した。
「しかも、状況を説明しなくちゃいけないでしょ。真ちゃんのことだから、なんか説教してきそうじゃね?」
 真次郎はああ見えて、わりに潔癖なところがある。
 芸能人や政治家の恋愛スキャンダルだの不倫疑惑だのが報じられるたび、手厳しく批判する。ドラマや漫画といったフィクションの世界ですら嫌悪感をあらわにしてこきおろしている。考えてみれば、職業柄、どろどろした恋愛がらみの相談が持ちこまれることもありそうなのに、うまく対処できているのだろうか。ちょっと心配だ。
 恭四郎もおのずと、兄の前では女子の話をひかえるようになった。小学校の低学年くらいまでは、クラスメイトからもらった手紙やバレンタインチョコを無邪気に見せびらかしては不興を買っていたことを考えれば、おとなになったものだ。というか、兄たちの様子を見る限り、恋愛経験という面では、もはや恭四郎が一番おとなといってもいいのかもしれない。
「あと、真ちゃんより優ちゃんのほうが、あててくれそうだし」
「へっ?」
 優三郎がぎょっとしたように眉を寄せて、声をひそめた。
「それ、本人に言うなよ」
「言うわけないよ。拗(す)ねてむくれるに決まってるもん」
 真次郎をさしおいて優三郎に占ってもらっていたと知っただけでも、きっと気を悪くするだろう。気を悪くするだけならまだしも、落ちこむかもしれない。あれで意外に傷つきやすいのだ。
 優三郎も同じことに思いいたったのだろう、気まずそうに押し黙っている。
「だから、お願い」
 恭四郎は拝むように手を合わせた。もうひと押しだ。
「真ちゃんには絶対に黙っとくから。もちろん、前に占ってもらったことも、内緒にするよ」
「それ、脅迫?」
「お願いだってば。さっきから言ってるよね?」

 前回、優三郎に占ってもらうことになったのは、偶然だった。
 二、三カ月前の、あれも日曜日だった。恭四郎にしては珍しく、なんの予定も入っていなかったので、家でたいくつしていた。
 なんの気なしに和室をのぞいてみたら、優三郎が畳一面にカードを広げていた。集中しているようで、襖(ふすま)が開いたことにも気づかなかった。
「なにしてんの?」
 恭四郎が声をかけると、優三郎は飛びあがった。
 一見トランプかと思ったが、絵柄を見たらそうではなかった。優三郎があわてふためいてカードをかき集めているので、ますます興味をそそられた。
「優ちゃん、タロットできるんだ?」
 これでも占い師の息子なので、恭四郎もその名前くらいは知っている。名前くらいというよりは、名前だけといったほうが、より正確だが。
 優三郎もそんなものだろうと思っていたから、意外だった。
「なに占ってんの?」
「別に」
 優三郎はあたふたとカードをまとめ、箱にしまおうとしている。どういうわけか、この機会を逃すのはもったいないような気がしてきて、「待って」と恭四郎はとめた。
「おれのことも占ってよ」
「恭四郎のこと?」
 優三郎が眉間(みけん)にしわを寄せた。断るかと思いきや、
「なにを?」
 と探るように聞く。
「なにって……じゃあ、将来どんな仕事に就きそうか、占ってくれる?」
 ちょうど三年生の先輩から就活の愚痴(ぐち)を聞かされたところだったので、思いつきで言ってみたのだが、
「タロットは、そういうことを占うのには向いてないんだ」
 と優三郎にすぐさま却下された。
 たとえば真次郎が専門としている占星術なんかとは違い、生まれつきの運命や性格というより、比較的近い未来のことについて占うのに適しているという。できればイエスかノーかでずばりと答えられるような、シンプルで具体的な問いを投げかけるのが望ましいらしい。
「この先どうなるか気になってることとかがあれば、占えるけど」
 優三郎に言われて、恭四郎は懸案をひとつ思い出した。
「今、ちょっといい感じになってる子がいるんだけど」
 同じ大学の違う学部に通う、二年生の女子だ。友達どうしの飲み会で知りあい、その後ふたりだけでも会うようになった。
「へえ。彼女とどうなるかが知りたい?」
「いや、どうなるかはだいたいわかってるんだよ」
 恭四郎はさえぎった。
「つきあおうって言われると思う、たぶん近いうちに」
「すごい自信だね」
 あきれているとも感心しているともつかない顔つきで、優三郎が言う。
「別に自信とか、そんなんじゃないって。ただわかるだけ」
「ふうん」
「で、つきあうべき? 断るべき?」
「え? そこは自分ではわかんないの?」
 優三郎はさも不可解そうに首をひねってみせた。
「いや、なんとなくわかるんだけどさ」
 つきあうことになるんだろうな、という予感はあった。
 相性は悪くなさそうだ。顔もかわいい。明るい性格も、男慣れしている感じも、好ましい。軽そうだとか遊んでるっぽいとかいう陰口もちらほら聞こえてくるものの、重いよりは断然いい。男に不自由しないということは、過剰な執着もしないはずだから、恭四郎とは気が合うだろう。
 しかし今振り返ってみれば、あそこで彼女の顔が浮かんだということは、恭四郎も無意識のうちにひっかかるものを感じとっていたのかもしれない。
 優三郎がひきあてたのは、ひどいカードだった。
 後ろ手に縛られ、木に逆さ吊(づ)りにされている男の絵柄である。その不吉さにひるんだというわけでもないが、恭四郎は半信半疑ながら、やめておいたほうがいいという優三郎の助言に従ってみようと決めた。
 案の定、しばらくして彼女に「うちら、気が合うよね? つきあってみない?」と持ちかけられた。恭四郎はやんわりと断った。
「いや、友達のままでいようよ」
「そっか」
 彼女は考えこむように口をつぐんだ。ひきさがるかと思いきや、
「じゃあ、お試しってことにしない?」
 と、ほがらかに言った。
「つきあってみなくちゃ、わかんないこともあるじゃない? やっぱりないなってなったら、そこでやめればいいんだし」
 いいよ、と恭四郎は言った。言わされた、ともいえる。
 その時点でうすうす予想はできたことだけれど、「やっぱりないな」と実感するまでに、さほど時間はかからなかった。
 まず、あまりにも束縛(そくばく)がきつかった。絶えず連絡をとりあわないといけないなんて、恭四郎にとっては苦痛以外のなにものでもない。電話をとりそこねたり、メッセージの返信が遅れたりすると、彼女はたちまちへそを曲げてしまう。おまけに、二、三日に一度は、じかに顔を合わせないと気がすまない。恭四郎のことが好きだからというよりは、男に放っておかれるのはプライドが許さないようだった。
 恭四郎は辟易(へきえき)して、早々に「お試し」の解消を申し出た。彼女はしぶったものの、いったん距離を置くということで合意をとりつけた。恭四郎としては、ほとんど別れたつもりでいた。
 まずかったのは、完全に片がつく前に、サークルの先輩の部屋に泊まってしまったことだった。
 もっと正確にいうなら、それを彼女に知られてしまったのが、まずかった。
 あの晩、カラオケの後にふたりで仲よく連れだってコンビニで買いものをしているところを、一年生の後輩に目撃されていたらしい。
 サークル内では、その手のうわさはたちどころに広まる。それを聞きつけた同期のひとりが、彼女にも伝えてしまった。よけいなことをするやつがいるものだと恭四郎はげんなりしたが、不穏な行動を見かけたら通報してほしいと前々から頼みこまれていたそうだ。サークル仲間をうっかり紹介したのが失敗だった。
 おそろしいことに、彼女は先輩の事情まで把握していた。
「そのひと、遠距離恋愛中なんでしょ? 誘うほうも誘うほうだけど、乗るほうも乗るほうだよね」
 いまいましげに罵(ののし)った。
「卑怯(ひきょう)だよ。さびしさにつけこんで」
 人聞きが悪い。つけこんでなんかいない。どちらかといえば、力になろうとしたのだった。一瞬でも、少しでも、さびしさが薄れるように。
 だが弁明はしなかった。彼女には伝わらないに違いない。下手にじたばたしても、火に油を注ぐばかりだ。明らかに形勢は不利だった。
 そこから、もめにもめた。さすがの恭四郎も弱ってしまい、再び優三郎のタロットに頼ろうと思いついたのだ。

		***

 形勢が不利に傾いてきたのを感じつつ、優三郎は反撃を試みる。
「恭四郎は、占いには興味がないんじゃないの?」
 この間も、なりゆきでたまたま占ってやることになっただけで、恭四郎はどちらかといえば面白半分という雰囲気(ふんいき)だった。
 もっとも、ああいう軽いノリだったからこそ、優三郎のほうも占ってみようかという気になったともいえる。やみくもに信じこまれてしまうほうが、むしろ困る。父の言う「プロ」なら話は別だろうが、優三郎にはそんな責任は負えない。負いたくもない。あくまでしろうとのやることだ。
「時と場合によるよ」
 恭四郎はしれっと答える。
「おれもときどきやってるよ、手相占いとか。合コンのときなんか、けっこう盛りあがるんだ」
 悪びれずに言う。
「あ、真ちゃんには言わないでね? 怒られそう」
「激怒だな」
 家業を飲み会の余興にしてしまってはまずいだろう。父ならひょっとしたらおもしろがるかもしれないけれど、真次郎は許してくれそうにない。
「でもまじめな話、優ちゃんは才能あると思うよ。実際、こないだのは的中だったわけだしさ」
「だけど、結果は別に気にしなかったんだろ?」
 優三郎はやめておけと言ったのに、それを無視してつきあったあげく、こんなことになっているわけだ。
「どっちみち気にしないんだったら、わざわざ占わなくてもよくない?」
「いやいやいや、誤解だって」
 恭四郎は心外そうに眉を上げ、両手をひらひら振り回す。
「ちゃんと優ちゃんに言われたとおりにしようとしたんだって、おれは。実際、一度は断ったんだぜ?」
「え、そうなの?」
 そのへんの細かい経緯は、詳しく聞いていなかった。
「そしたら、お試しでいい、って言われたんだよ。一度つきあってみて、やっぱり違うってことになったら、あきらめるって約束だったのに」
 恭四郎は恨(うら)めしげに頭を振る。
「そこまで言われて、優ちゃんだったら断れる?」
 優三郎は言葉に詰まる。
 考えるまでもない。なにせ「優柔不断」で「他人に振り回されがち」な性分なのだ。真次郎によれば、生まれつき星々にそう運命づけられているらしいのだから、どうしようもない。
「反省してるんだよ、おれ」
 恭四郎はずいと身を乗り出し、真顔でたたみかけてくる。
「はじめから優ちゃんの言うとおりにしとけばよかった。今度こそ、間違えないようにしたいんだ」
 優三郎は観念して腰を上げた。
 押し入れを開ける。たたんだふとんの傍(かたわ)らに、ひきだし型の収納ケースを入れて、戸棚代わりに使っている。
 最上段のひきだしの奥から、タロットカードを出した。一組七十八枚のカードが、紙製の小箱におさまっている。

 このタロットカードは、父から譲り受けたものだ。
 はじめて目にしたときは、トランプかと思った。手のひらにすっぽりおさまるサイズも、厚みも、よく似ている。
 もう二十年も前のことになる。優三郎は五歳だった。恭四郎が生まれた数日後で、母はまだ産院にいた。
 確か、東泉堂(とうせんどう)は休業日だった。しかし父はなにか急ぎの用事があったのか、優三郎を幼稚園まで迎えに来た後で、仕事場に立ち寄ったのだ。
「ちょっと待っててな」
 父が仕事を片づけている間、優三郎は部屋の中をうろうろして過ごした。それまでにも何度か連れて来てもらったことはあったので、おもしろそうなものがたくさん置いてあるのは知っていた。興味があれば自由に見たりさわったりしてかまわないが、その後は必ず元あった場所に戻しておくように、と父には言われていた。
 その日、優三郎の目をひいたのは、戸棚の片隅に置かれていた小箱だった。
「これ、なあに?」
 父の手が空いたのをみはからって、聞いてみた。
「タロットだよ」
 父が箱からカードを取り出して見せてくれた。
 色とりどりの神秘的な絵柄に、優三郎は目を奪われた。トランプや、他にも何種類かカードゲームで遊んだことはあるけれど、こんなにきれいなのははじめて見た。それがゲームではなく父の仕事道具だと知って、いっそう興味がわいた。
「こうやって占うんだ」
 父は優三郎にカードの扱いかたをざっと説明してくれた。
 まずカードを裏向きにしたまま、両手で時計回りにまぜる。シャッフルだ。じゅうぶんにまざったところで再びカードをひとつの山にまとめて、いったん三つに分けてから、また重ね直す。これはカットと呼ぶ。最後に、カードを横にすべらせるようにして一列に並べる。
 最後に、一枚選ぶ。
「占いたいことを心の中に思い浮かべながら、ひくんだよ」
 優三郎も、見よう見まねでやってみた。
 ひきあてたのは、華やかな色あいが目をひくカードだった。空には立派なお日様が燦然(さんぜん)と輝き、白馬の背にまたがってにっこり笑っている子どもと、満開のひまわりが描かれている。
「太陽、っていうカードだ」
 興味深げに見守っていた父が、優三郎の手もとをひょいとのぞきこんだ。
「なにを占ったんだ?」
「赤ちゃんのこと」
 優三郎は答えた。偶然にもカードの絵柄とぴったり合っている気がして、なんだか不思議だった。
「どんな子かなって思ったんだ」
「そうか」
 父が顔をほころばせた。
「いいカードだよ。誰からも愛される、明るい子になる」
 カードをしみじみと眺めてから、優三郎に向き直った。
「どうだ、仲よくできそうか?」
 優三郎はこっくりとうなずいた。
「できる」
 父がそう答えてほしそうだったからではなかった。弟ができることが、本当に楽しみだったのだ。
「よかった」
 父は優三郎の頭をなでてくれた。
 後から聞いた話では、弟の誕生によって優三郎が情緒不安定になるのではないかと両親はひそかに懸念していたそうだ。なんでも、優三郎が生まれた直後に、二歳の真次郎が赤ちゃん返りして大変だったらしい。幸い、優三郎にはそういうことはなかった。真次郎の問題というより、二歳というのが微妙な年頃なのだろう。
 ともあれ、今にして思えば、あの占いはけっこうあたっていたのかもしれない。
 明るい子になると予言された赤ん坊はすくすくと成長し、誰からも愛されるおとなになった。いささか愛されすぎているといえなくもない。
 使いこんだタロットカードを手に、優三郎は恭四郎の向かいに座り直す。弟について占うのは、これで三度目ということになる。
「なにを占ってほしいんだっけ?」
 箱から出したカードの束を、まとめて畳の上にふせる。
「彼女とうまく別れるには、どうしたらいいか」
 うまく別れるにはどうしたらいいか。優三郎は心の中で唱えながら、七十八枚のカードを両手でシャッフルした。まぜているうちに、自然に手がとまるときがくる。カットに進む。慣れた手順なので、あれこれ考えなくても機械的に手が動く。
 優三郎は背筋を伸ばし、カードを横にすべらせて横一列にざっと広げた。軽く目をつむって深呼吸する。
 まぶたを開ける。ずらりと並んだカードが、目に飛びこんでくる。
 その中の一枚にだけ、くっきりとピントが合っている。残りは全部、まるで広角レンズで撮った写真の背景みたいに、ふんわりとぼやけて見分けがつかない。
 優三郎は迷わず手を伸ばして、選んだ一枚をゆっくりとめくった。

(つづく) 次回は2022年9月15日更新予定です。

著者プロフィール

  • 瀧羽麻子(たきわあさこ)

    2007年『うさぎパン』で、第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。19年『たまねぎとはちみつ』で第66回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。作品に『ふたり姉妹』『あなたのご希望の条件は』(いずれも祥伝社)、『女神のサラダ』『ありえないほどうるさいオルゴール店』『もどかしいほど静かなオルゴール店』『博士の長靴』など多数。