原田ひ香
「本当にうまい餃子(ぎょうざ)を知っていますか?」 その男は言った。 九月とはいえ、まだまだ暑い夜だった。 今夜の依頼主は向井康太(むかいこうた)、四十二歳、ということだった。 どうして見守り屋を雇ったのか、いまひとつ、わからない客だと言われた。 「いろいろ聞いても要領を得ないんだ」 祥子(しょうこ)の雇い主であり、「中野お助け本舗」の社長であり、同級生でもあった亀山太一(かめやまたいち)は言った。 「本当は俺が行くつもりだったんだけど」 しかし、亀山は昔からの大のお得意様から急に呼ばれて、どうしてもそちらに行かなくてはならなくなり、祥子に仕事が回ってきた。 「中野お助け本舗」はもともと、いわゆる便利屋をしていた。それが、どういうことか、夜から朝まで「見守ります」という業務を加えたところ、ぽつぽつと仕事が入り、今ではそれが主な業務内容になってしまった。 営業時間は深夜二十二時から朝五時まで、とはいえ、相手次第でフレキシブルに対応する。暗くなってから昼前くらいまでなら客の意向に従う。 本来、初めての男の客はよほどのことがないかぎり、亀山が行く。けれど、今日は急なことで、祥子が対応するしかなかった。 まあ、祥子も見守りの数をこなしてきて、玄関を開けば、その相手がどんな人間か、わかるくらいにはなっていたが。 向井は蒲田(かまた)駅から徒歩十分ほどの灰色のマンションに住んでいた。最終電車くらいの時間に来てくださるので結構です、という依頼だった。 「亀山さんからお話は聞いています。どうぞ」 細身で、前髪を重そうにたらしたような髪形は、彼を年より若く見せた。 室内はきれいに片付けられており、玄関には革靴とスニーカーがそろえられていた。祥子はとっさに、「大丈夫だ」と判断して中に入った。 「すみませんね」 向井は祥子をダイニングのソファに座らせると、謝った。 「亀山さんが来られなくなって女性が来るとお聞きした時に、だったらそこまでしていただくには及ばないと言ったんですけど」 「かまいません。仕事ですから」 「この部屋、週末には引き払うんです。まだあまり片付けはできてなくて」 「そうですか」 確かに、部屋の片隅に、真新しい段ボール箱がたたんで置いてあった。 そして、向井は「あ」と言った。 「だからかもしれません。四年前にここに越してきてから、一度も人を呼んでないな、と思ったら、なんだか寂しくなっちゃって」 「そういうことでしたか」 「ちょっと人と話をしたい、という気持ちもありましたし。亀山さんに聞かれた時はどうして見守り屋さんを頼みたいのか、自分でもよくわからなかったんです。ネットか何かで読んで、記憶には残っていたんです……田舎に帰ったらそんなサービスはきっとないだろうし、いかにも都会らしいことを試してみたいという気持ちもありました」 祥子は思わず、微笑(ほほえ)んだ。 「人と話していると自分の本当の気持ちがすぐにわかるもんですね」 「どちらに越されるんですか」 「実家に戻ろうと思ってます。秋田です」 「あ、私、北海道です。道東」 そう近くもないが、距離的なことではなく北の方だ、ということが気持ちを近づけた。 「え、僕、一度、帯広(おびひろ)に行ったことがありますよ」 「へえ、そうなんですか」 彼はセールスマンをしていたと話してくれた。今は営業職、と言った方がいいのかもしれない。大学卒業時は不況で、やっと入れたのが不動産会社の営業だった。ワンルームマンションを売らされた。成績は普通だった。強引に売ることもできないが、一つも売れないというほど悪くもなかった。ただただ、誠実に言葉を重ね、人より多くの時間を費やすことによって実績を上げた。 「営業って、詐欺(さぎ)まがいの商法とかもあるし、たくさん人を雇っておいて、ほとんどが続かずに辞めていくのも事実です。だから、ブラック企業だと思われがちで嫌われますけど、まあなんとかやっていける人間もいるんです」 「合っていたんですね」 穏やかに話していた向井が間髪容れずに答えた。 「合っていません」 「あ、すみません」 「いいえ」 しばらく、沈黙が訪れた。 「……他にやることがなかったから」 先に口を開いたのは向井だった。 「不動産を手始めに、英語教材、百科事典、ファミリータイプのマンション、それから保険……結局、保険が一番長く続きましたね。まあまあ、売れたものもあったし、まったく売れなかったものもあった」 「そうですか」 「そうして、仕事を変えているうちに、友達がいなくなってしまったのかもしれません」 向井は、すべてのものをどこか少し離れたところから見ているような気がした。自分の人生も、扱ってきた商品も、それを買う客も。それがセールスマンを続けてこれた秘訣だったのかもしれない。そして、本人が言うように友達をなくしてしまった理由だったのかも。 「あの」 夜中の二時を回った頃、祥子は言った。 「よかったら、引っ越しの手伝いとかしましょうか。起きていらっしゃるつもりなら」 「いえいえ」 向井がやっと微笑みながら、言った。 「たいした荷物もないですし、すぐ終わりますから」 確かに、さっぱりした部屋だった。 「ソファもベッドも処分するつもりです」 「そうですか」 田舎に帰る理由は最後まで明かさなかった。 配信サービスで映画を一本見た。 明け方、映画が終わって、外が明るくなってくると、向井がつぶやいた。 「本当にうまい餃子を知っていますか?」 「え」 「帯広というと、餃子がうまい街だと記憶しているんです」 「帯広が?」 祥子は聞き返した。 「はい」 「私の方は、そういう記憶はまったくないです。ジンギスカンとか焼き肉とか、チーズとか野菜とか……魚も十勝(とかち)港から運ばれますし、おいしいものはいろいろありますけど、餃子は……」 「ご存じないですか」 「はい」 「あれは、三十になったばかりの頃だから十年以上前です」 彼は話し始めた。 「百科事典を売っていた頃です。僕史上、一番売れなかったものでしたね。結局、一つも売れないまま、半年くらいで会社を変わったんじゃないかな。正直、百科事典の必要性を僕自身が感じてなかったし」 「確かに、百科事典って私もそんなに欲しくないです」 祥子が苦笑しながら言った。 「それでも、売る人は売るんですから、僕には才能がなかったのでしょう。当時日本支社で一番売っていた女性は、全世界に広がる支社の中でも一位の営業成績を上げていましたよ。僕は上司に毎日毎日、叱(しか)られて叱られて、少しノイローゼ気味になっていました。とにかく、どこでもいいから、誰にでもいいから売れ、と言われて、ある日、会社に行きたくなくなって、僕は客の問い合わせがあったから、と嘘(うそ)をついて、北海道に行きました。とにかく、どこか遠くに行きたかったんです」 向井は明るくなってきた窓の外を見た。 「帯広の駅前の宿を取りました。ビジネスホテルなんだけど、階下に大きな温泉があるところで、そこに長い時間浸かって、少し元気になってきました。食事をしようと下りたフロントで、駅から少し歩くと食事ができるような店が並んでいる繁華街があると教えてもらって外に出たんです」 「時期はいつですか」 「十一月の終わり頃でした」 「もう寒かったでしょう」 「ええ。しかも、雪が降ってきたんです。東京から来たから、薄いコート一枚でね。駅前の温度計はマイナス二度になってました」 向井は秋田出身だから、寒さや雪に対する怖さも知っていた。けれど、雪国出身だからこそ、それを少し甘く見たところもあった。 「自分はよく知ってる、と思っていたから、このくらいなら大丈夫だと思ったんです。だけど、雪がどんどんひどくなってね。それなのに、店らしい店が見えてこない。あっても、閉まってたりして。ホテルに戻ることも考えたんだけど、まあ、ここまで来てしまったし、と思って歩き続けてしまったんです」 風が強く、あっという間に吹雪のようになった。そこまできたら、今来た道を引き返すのもリスクがあるように思えてきた。 「とにかく、ひとっ子一人いないんです。ビルや店はあるんだけど、どこも閉まっていて廃墟(はいきょ)みたいなんです」 それでも、向井は仕方なく歩み続けた。 「実は、その頃、本当に仕事に行き詰まっていて」 「はい」 「仕事が合わないというのはわかっていたんだけど、景気も悪かったし、セールスマンといえども簡単に転職できる状況ではなくなっていました。三十を過ぎていましたしね。なんというか……かなり悲惨な気持ちであの街にいたんです。心のどこかでもうどうにでもなれ、という感じで。かなり投げやりで、あれは」 向井は遠くを見た。 「ある意味、死んでもいい、くらいの気持ちでした。吹雪の中にいたのは実際は十分か二十分くらいのことだったでしょう。でも、その自殺願望に近いような気持ちになった時、灯(あか)りが見えたんです」 「灯り」 あかり。ふっと思う。それは祥子の娘の名前でもあった。別れた夫の元に残してきた娘の明里(あかり)。 「そう、灯りです」 祥子の気持ちも知らず、向井はくり返した。 「なんだか、暖かな灯りでした。現金なことに灯りが見えたら、急にお腹が減ってきて」 それは、「北の屋台」という帯広の屋台村の灯りだった。 「屋台と言っても、ちゃんと囲いのある、小さな店舗がびっしり並んでいるようなところなんです。どこに入ろうか迷ったんですけど、僕はちょうど開店したばかりの店に入りました。他に客がいないから気楽に入れたんです。ちょっとふっくらした女性と中国系の男性が迎えてくれて……お二人はご夫婦のようでした。その店で一番人気のメニューの焼き餃子とそれから勧められるままに、前菜を何品か頼んだのかな。あと、寒かったので、温めた紹興酒(しょうこうしゅ)にいろいろな薬膳を入れた酒も頼みました」 その頃には、祥子の喉(のど)がごくっと鳴りそうになった。 「で? どうでしたか?」 「前菜はジャガイモのサラダでした。ポテトサラダではなくて、ジャガイモを千切りにしてさっと湯通ししてごま油で和えたような……これがなかなかうまかったんです。これは餃子も期待できるぞ、と思っていたところに、焼き餃子が来ました。想像以上でした」 「餃子にもいろいろありますよね、小さめでぱりぱりとか、薄い皮でこんがりとか……」 「本格的なやつでした。手作りのもっちりした皮で肉汁たっぷりのあんがくるまれていて、底はぱりぱりとよく焼かれていて、噛(か)むと肉汁がぶわーっと。酢醤油(すじょうゆ)とラー油につけて一口頬張ったところで、思わず、『焼き餃子、追加で。あと、水餃子も!』って言ってました。あんな本格的なものを北の果ての、あ、すいません、屋台で食べられると思わなかったんです。皮がいいんですよね。もちもちしていて。餃子は皮を食べるものなんだってあの時、初めて知りました。あんな餃子、東京に戻ってからも食べたことないな。おいしい餃子は他でもたくさんあるんですけど、あそこまで皮がしっかりしているのは。目の前で旦那さんが小さいめん棒を使って包んでくれるんです。あの手つき、今でも思い出します。女将(おかみ)さんも料理を作っている旦那さんもにこにこしていて、紹興酒の薬膳燗酒(かんざけ)もうまくて……夢のような時間でした」 「よかったですね」 「食べている間に、なんとなく、お店の人と話していて、旦那さんはやっぱり中国の方で、帯広出身の奥さんと上海で出会って結婚してこちらに来たのだとわかりました。僕、店の人と話すとかそういうの苦手なんですけど、お二人は話しやすくてね」 「本当に、感じのいい方たちだったんですね」 「お二人ともいろいろ苦労されているみたいでしたけど、ずっと和かで、楽しそうに働いてました。僕は、僕は」 「はい」 「やっぱり、生きようと思いました。東京に帰って、今の仕事を辞めて、で、むずかしいかもしれないけど、新しい就職先を探そうと」 話しているうちに、向井は寝てしまった。 白々と明けてくる部屋の中で、祥子は彼の顔を見ていた。 ―――なんだか、いろいろなものを抱えている人だったんだな。寝てくれてよかった。だけど、私の、この餃子で膨(ふく)れ上がった気持ちをどうしてくれよう。 向井が起きるまで待って、少し引っ越しの手伝いをして、家を出た。 ―――お昼まで時間があるから家の近くまで帰ってご飯を食べてもいいけど、あんまり餃子がうまい店ってないんだよな。まして皮の厚い、本格的なやつは……。 会話の中で、向井から、帯広の店ほどではないが、蒲田も餃子がおいしい店がある街だと聞いていた。 蒲田の駅まで来て、駅ビルの方から入った時、その店を見つけた。 沖縄料理の店で、サーターアンダギーにコーヒーを付けて百九十円、と看板が出ている。 ―――サーターアンダギー、好きだ。あれ、食べながらコーヒー飲んで、ちょっと時間を潰(つぶ)して、餃子を食べて帰ろう。 出てきたサーターアンダギーは揚げたてのようだった。小さな得をした気がして、祥子はほっこりしながら餃子が食べられる店の開店時間を待った。 餃子屋はスマートフォンで調べて、何軒か候補を絞っていた。 アイスコーヒーを飲みながら、その中から一軒を選ぶ。 ―――肉汁たっぷりの餃子、やけどに気をつけて。羽根つき餃子の元祖……なんと、これはいい。この店にしよう。 十一時二十分を過ぎた頃、店を出て、餃子屋に向かった。場所は大田区役所の近く、少し離れたところからでも赤い華やかな看板が見えた。数分歩いただけなのに、汗ばんでしまう。 着いたのは開店前だったが、数人の中年女性たちが並んでいて、女店主は気を遣(つか)って店を開けてくれた。祥子は窓際に並ぶ四人掛けの席の一番奥に座った。小さい黒板に今日の定食が書いてある。 一、回鍋肉(ホイコーロー)、二、長葱(ながねぎ)とキクラゲ玉子、三、エビチリ玉子丼、餃子、四、チャーシュー麺、餃子、ライス、とここまでが七百円。五、塩ラーメン、餃子、サラダが五百円。 ―――ラーメンと餃子で五百円はリーズナブル! すごく迷うけど……今日はエビチリも食べてみたい。 見れば、祥子より先に入った中年女性たちは定食ではなく、餃子と水餃子を何皿も頼み、賑やかにビールを注文している。 ―――ああいう頼み方もいいなあ、うらやましい。水餃子も食べてみたい。 しかし、祥子は考えに考えて、三番の定食と生ビールにした。 ほどなく、定食とビールが届いた。 まずはビールを一口。仕事のあとの身体(からだ)に染み渡っていく。口の中の頬の裏側あたりに、ビールが染みこむ、特別な場所があるような気さえする。鮮やかな赤オレンジと黄色のエビチリ玉子丼にも惹(ひ)かれたが、まずは餃子を頬張る。気をつけたつもりなのに、肉汁がほとばしって、思わず、皿の上に顔を近づける。もちもちした皮、ぱりぱりの羽根、たっぷりの挽肉(ひきにく)と肉汁、すべてが理想的だ。向井の話を聞いてから、ずっと思い浮かべていた餃子欲をやっとなだめることができた。 ―――ああ、うまい。うまい。この店にして、よかった。 エビチリ玉子丼をレンゲですくう。これはなかなか酸味が強く、刺激的な味。だけど、これまたビールに合う。餃子と交互でエビチリ、ビール、餃子、ビール、と良い永久運動ができた。 ふっと、ある記憶がよみがえった。 離婚したばかりのことだ。 祥子は元夫、義徳(よしのり)のところに残してきた娘と久しぶりに会った。 娘の明里はまだ五歳だった。 祥子は仕事が決まっておらず、小さなアパートに住んで、アルバイトをしながら、結婚前の貯金を切り崩して生活していた。 元夫が連れてきた娘はどこか元気がなかった。彼と別れて、「何が食べたい?」と尋(たず)ねると、「回転のお寿司」と言う。 正直、まいったな、と思った。お金がなかった。次の給料日まであと一週間、数千円の金が財布にあるだけだった。 駅前で、一皿九十九円の店を見つけて入った。 娘が好きなものをなんでも食べさせてやりたかった。 「まぐろ」「いくら」「たまご」 明里が言うままに皿を取った。 途中、彼女が気がついて尋ねた。 「ママ、食べないの?」 「ママはお腹がいっぱいなの」と答えた。 嘘でもなかった。朝、一枚のトーストを食べたきりの胃袋はからっぽだったが、明里が食べている様子を見て話を聞くだけで、嬉(うれ)しくて、かわいくて、胸がいっぱいだった。 明里は一度だけ、聞いた。 「今日はパパは来ないの?」 「あとで来るよ。明里ちゃんを迎えに」 あんなに食べたがったのに、明里は数皿食べただけで、「もうお腹いっぱい」と言った。まだ幼かったし、そう、疑問にも思わなかった。 数時間後、義徳に明里を渡して、バイバイと手を振って別れた。 別れなければならない寂しさはあったが、明里の声や顔を思い出すだけで満足だった。 帰宅の途中で気がついた。 回転寿司は、短い結婚生活の中で数少ない家族三人の時間だった。 元夫の両親と同居していてうまくいかなくなった時期でも、回転寿司だけは、義徳と祥子と明里、三人で行く場所だった。義父母は「回るお寿司は嫌い。落ち着いて食事できない」と同行を断ったからだ。 義父母との不仲を娘の前で見せることは絶対になかった。義母も祥子もそれは徹底していたつもりだった。だけど、明里は義母を前にした祥子の不安や緊張を読み取っていたのだろう。そして、唯一それを避けられる回転寿司を選んだのだろう。そこに元夫も来ることを願って……。 気がついた時、祥子は人目もはばからず涙をこぼし、給料日までわずかな金しかないのに、コンビニで強いアルコール度数の缶酎ハイを買って帰って飲んだ。 なぜ急にそんな記憶がよみがえってきたのかわからない。 ただ、悲しみと喜びがない交ぜになった餃子の話を聞き、「あかり」を思い出したことで、心の扉が開いてしまったのかもしれない。 ―――向井さん、ここの餃子は食べたことがあるのかしら。 北海道の雪の日に、身体が冷え切ったあと、食べた餃子は格別だったはずだ。 「だけどね、実はその後、もう一度行ったら、なくなってたんです」 潰れてしまったのか、移転したのか、わからないままらしい。 寝入る前、向井はそう言っていた。 スマホを使って、それらしいワードを入れて調べてみる。しばらく検索して、どうも、同じ店が札幌で開店しているらしい、ということを突き止めた。 ―――これはいいや。あとで、亀山経由で、教えてあげよう。故郷に帰ったら、札幌に行く機会もあるかもしれない。 餃子もエビチリ玉子丼もビールも平らげて、祥子はまた暑い外に出た。次は水餃子を食べに来ようと誓いながら。 日傘を差しながら考える。人は時々、思いも寄らないところで人を救う。思わぬ味が人を救い、記憶をよみがえらせる。きっと帯広の餃子の店の人たちも、ある一人のセールスマンを救ったとは知らないはずだ。 そんな仕事ができたらいいのに。 祥子はまた歩き出した。(つづく) この続きは2021年6月刊行の単行本『ランチ酒 今日もまんぷく』でお読みになれます。
1970年、神奈川県生れ。2006年「リトルプリンセス二号」で第34回NHK 創作ラジオドラマ大賞受賞。07年には「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に『ランチ酒』『ランチ酒 おかわり日和』『東京ロンダリング』『三人屋』『母親ウエスタン』『三千円の使いかた』『DRY』『おっぱいマンション改修争議』などがある。