物語がつまった宝箱
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2015年3月で、2歳になる娘・ふきとのくらしのあれこれをつづっていきます。
どうぞよろしくお願いします。

  • なまえのはなし 2015年2月1日更新
 生まれてくる子が女の子とわかった瞬間から、名づけに悩む日々がはじまりました。早春生まれだから、春にちなんだ名前がいい。予定日は2月末だけど、どうしても3月に産みたかった私。雛まつりあたりが誕生日だといいなぁ、なんて。それが高じて、一時期は「三月(みつき)」が第一候補に。  でも、甥っ子の樹(いつき)に響きが似過ぎてる。うーん、花見(はなみ)、春来(はるき)、葉菜(はな)……。梅の花が大好きな夫は「梅子」を主張。かわいいけど、名字とあわせるとあまりに渋過ぎる。夫は少々変わり者なので、冗談か本気かよくわからない名前を挙げてくる。巳子(みこ 巳年生まれだから)に九州子(くすこ 夫は佐賀出身)、よか子(佐賀弁で”よい子”)……。
 妊娠9ヶ月に突入したお正月。実家で名前を考えていると、母が「季節のきれいな言葉がたくさん載ってるよ」と俳句の季語辞典を出してきてくれました。早春の季語を探していた母が、「蕗の薹の”ふき”なんていいんじゃない?」と言った瞬間――「それだ!」 春の八甲田を旅したとき、バスの車窓から見たふきのとう。道の両側にはまだ高い雪の壁が残っているのに、道路脇の土からあちこちに顔をのぞかせていました。その愛らしく力強い姿に、「春の訪れをしらせるふきのとうって、うれしいなぁ。なんてかわいいんだろう」と感激したことを思い出しました。生まれてきた娘の顔を見て、「うん、やっぱりこの子は蕗ちゃんだわ」と確信したのでした。  これからずっと、娘と共に生きていく名前。あんまり「こういう人になってほしい」という願いを託さないように心がけているけれど、よろこびを運ぶふきのとうが名前のいわれということは、もう少ししたら伝えてあげたい。

このつづきは2017年12月頭発売の単行本でお読みになれます

著者プロフィール

  • 杉浦さやか

    日本大学芸術学部在学中に、イラストレーターの仕事を始める。独特のタッチと視点のイラスト&エッセイが、読者の熱い支持を集めている。イラストのかわいらしさはもちろん、文章のうまさにも定評がある。著書に『ベトナムで見つけた』『東京ホリデイ』など、多数。