東京の花や緑のスポットと、その周辺の街をめぐるお散歩レポート。花を追いかけての連載なので、どうしても掲載の時期と花の見頃がずれてしまうのですが……街自体も魅力的な場所を歩くので、ぜひお楽しみください! さて、第10回は、秋の薔薇と都会の田んぼ。訪れたのはーー
東京大学の駒場キャンパスを有する目黒区駒場。瀟洒な住宅街にある駒場公園の中に建つのが、旧前田家本邸洋館と、純日本建築の和館。建てたのは、加賀百万石と謳われた大大名・前田家の16代目当主、前田利為(としなり)侯爵。洋館は前田家の邸宅兼迎賓館として、昭和4年に竣工されました。 洋館のアプローチには小さなバラ園があり、春と秋にお屋敷を彩っています。洋館が大好きでいくつも見てきたけれど、群を抜いて贅を尽くしたつくりに、ため息が出るばかり。当時〝東洋一の邸宅〟と称されたのも納得。柱の彫刻に天井のレリーフ、さまざまな形の照明器具、マントルピースの飾り、随所に植物の意匠がちりばめられ、目が忙しく飛びまわりました。 外国からの来賓に日本文化を伝えるために建てられた和館は、昭和5年竣工。洋館も和館も1日に何度もガイドツアーがあるのがうれしい。邸宅は戦後GHQに接収された時期や、企業の所有になったことも。その後国から東京都の所有に移り、昭和42年に駒場公園として生まれ変わりました(現在は目黒区立)。駒場のもうひとつの大きな公園が、駒場東大前駅からほど近い、駒場野公園。名物スポットは井の頭線の車窓からも見える、駅手前のかわいい田んぼ。かつてこの地にあった駒場農学校で、ドイツ人教師ケルネル氏が土壌や肥料の研究を行なった田んぼ。現在も筑波大学附属駒場中・高の生徒たちが稲作を行なっています。 田んぼは上から眺めるだけだけど、田んぼの裏手には雑木林やお花見で人気の芝生広場、薬草園などがあり、変化に富んだ楽しい公園です。私が駒場に来る目的は、ほぼ日本民藝館と言っていいほど。日常で使う品に宿る美を唱えた、思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)を中心に、1936年に創設された美術館。陶磁器、染織、木漆、絵画など日本や世界の工芸品約17000点を収蔵。大谷石が敷き詰められた玄関、シンメトリーな大階段、置いてあるものすべてに美意識がゆき届き、建物の中にいるだけで贅沢な気分。 特集展示(取材時は芹沢銈介展)のほかに、「東北の工芸」や動物モチーフばかり集めた「朝鮮工芸の意匠」など、展示室ごとにその時々のテーマ別に品々が並ぶ。江戸や明治のものでも、実際人々に使われていたものだからか、身近に「ああ、欲しいなぁ」と感じられる素敵なものばかり。日本民藝館 https://mingeikan.or.jp/べにや民藝店 http://beniyamingeiten.com/(つづく) 次回は2025年2月1日更新予定です。
日本大学芸術学部在学中に、イラストレーターの仕事を始める。独特のタッチと視点のイラスト&エッセイが、読者の熱い支持を集めている。イラストのかわいらしさはもちろん、文章のうまさにも定評がある。著書に『ひっこしました』『ニュー東京ホリデイ』『世界をたべよう!旅ごはん』『たのしみノートのつくりかた』など、多数。